一番好きな旅:サンティアゴ巡礼路の旅
一番好きな旅
「海外旅行が好き」という話をすると、「おすすめの場所はどこですか?」とよく聞かれますが、この質問にはちょっと悩んでしまいます。
「おすすめの場所は?」と聞かれて悩むのは、「何をするのにおすすめの場所か」がわからないからです。「東京に住んでいるんですよ〜」と話したのに対していきなり「東京でおすすめの店は?」と返されて、おすすめのレストランなのか、おすすめのスーパーマーケットなのか、おすすめの雑貨屋さんなのか、おすすめの本屋さんなのか、がわからないようなものです。これまで訪れた数多くある場所の中から、「何をするのに」がわからない状況で「おすすめの場所」を選ぶなんてできません。
とはいえ、こんな説明をするのも感じが悪いので、「おすすめの場所はどこですか?」という質問を「街歩きをするのにおすすめの街はどこですか?」という質問だと勝手に解釈して、「プラハですかね〜」と当たり障りのない答えを出しておきます。「綺麗だと思った風景はどこですか」と解釈して、「パリの凱旋門の上から見た夜景」と答えたこともありました。
このように、「おすすめの場所」は選ぶのは難しいですが、「一番思い出に残っている旅は?」という質問には、以前のエントリーに書いたように「家族で行った夜行列車の旅」と答えることができます。
また、「最高だと思った旅はどの旅ですか?」や「好きな旅はどんな旅ですか?」という質問に対しても、僕の中には明確な答えが用意されています。「一番思い出に残っている旅」が心に印象強く刻まれている過去の旅であるのに対して、「好きな旅」は現在進行形で未来にも続く感じ。前に行ってとても楽しかったから、何度でも行ってみたいと思える旅、という感じでしょうか。
この「好きな旅はどういう旅ですか?」という質問に対する僕の答えが、「サンティアゴ巡礼路の旅」です。
サンティアゴ巡礼路とは
サンティアゴ巡礼路は、正式には「サンティアゴ・デ・コンポステラの巡礼路」で、スペイン北西部にあるキリスト教の聖地、サンティアゴ・デ・コンポステラへと続く巡礼のための道です。世界遺産にも登録されている歴史ある道で、スペイン語で単にEl Camino(英語に直訳してThe Way、日本語では「道」)と言って、サンティアゴ巡礼路のことを言い表すことができます。
サンティアゴ・デ・コンポステラへの巡礼は、昔は家から歩いて行ったそうで、そういう意味では家からサンティアゴまでが「巡礼路」なのですが、ふつう「サンティアゴ巡礼路」というと多くの巡礼者が歩くために整備された道のことを言います。とはいえ人々はヨーロッパ各地からサンティアゴまで巡礼に向かったために、あらゆる方面からの巡礼路が整備されました。ポルトガル人が向かうための「ポルトガル人の道」やイギリス人が船でスペインの港までやってきてその港からサンティアゴまで向かうための「イギリス人の道」などがあります。
数ある巡礼路の中でも、今日最も有名な道が「フランス人の道」です。もともとフランス人のための巡礼路で、スペイン国境近くのフランスの町、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーからがサンティアゴ・デ・コンポステラまで約780km続く道のことを言います。
昔はその名の通り、キリスト教徒が巡礼するための道でしたが、今では世界中のあらゆる人があらゆる目的で歩いています。単に「旅行で」という理由で歩いている人がかなり多いと思います。
そして、僕も4年前のゴールデンウィークに5日間、このサンティアゴ巡礼路を歩きました。
僕のサンティアゴ巡礼路の旅
サンティアゴ巡礼路を歩く人にとってのゴールは当然サンティアゴ・デ・コンポステラですが(サンティアゴからさらに西へ向かい大西洋に臨むフィニステラという場所まで歩く人も一部います)、一方でスタートは人によってそれぞれです。もともとの巡礼では家から向かったと書きましたが、今でも明確なスタート地点はありません。
このように、サンティアゴへの巡礼は、どこから旅を始めてもいいのですが、サンティアゴ・デ・コンポステラまで巡礼路沿いに100km以上歩くと巡礼証明書がもらえます。そのため、歩ける期間が1週間程度しかない人の多くは、サンティアゴからフランス人の道で114kmちょっとの位置にあり、アクセスが便利なサリアという町からサンティアゴまで歩きます。
しかしながら、あっさりサリアから5日間歩いて巡礼の旅を終えるのも面白くないなと思い、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから始め、何回かに分けてサンティアゴ巡礼路の旅を行うことにしました。もともとの予定では、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから約160km地点にあるログローニョという町まで歩きたいなと思っていましたが、さすがに5日間でこの距離を歩くのは厳しく、結局はおよそ120km地点にあるロス・アルコスという町までの旅になりました。
この5日間120kmの旅は、ほんと素晴らしいものでした。サンティアゴ巡礼路の旅の魅力についてはまた別のエントリーで詳しく書きたいと思いますが、この旅の「のんびりと歩きながら、新たな景色、人、食べ物との出会いを楽しむ」というスタイルがあまりにも自分にフィットしすぎていて、「ついに自分の求めていた旅に出会えた!」という気持ちでいっぱいでした。
サンティアゴ巡礼路の旅で形になった自力旅
2009年にフランスのロワール地方での1日サイクリング旅が「自力旅」の原点だとすると、2012年のサンティアゴ巡礼路の旅は「自力旅」がはっきりと形となった旅です。
「5日間で120キロを歩いた」と言うと、たいていの反応は、「うわー、すごいですね。」というものですが、大したことはありません。1日20km程度なら意外と普通に歩けるものです。
このブログを読んでいただいている方の多くも、僕がマラソン大会に出たり、山に登ったりできるから、120キロを歩くなんてことができたんだろうなーと思うかもしれません。しかし、実際には逆なんです。サンティアゴ巡礼路を歩いた時には、まだ僕はランニングも山登りも本格的に始める前でした(単発で、富士山に登ったり、10kmのマラソン大会に出たことはありましたが、継続的な趣味として行ったものではありませんでした)。サンティアゴ巡礼路の旅がきっかけの一つとなって、ランニングや山登りを始めることになったのです。職場にランニング好きや山好きな先輩がいたことも大きかったですが、サンティアゴ巡礼路の旅に出ていなければランニングや山登りの世界にここまで足を踏み入れなかったと思います。
ただ、サンティアゴ巡礼路の旅から派生して始めたランニングや山登りなので、僕にとって走ることや山に登ることは手段でしかなくて、移り変わる景色を楽しむというのが目的になっています。なので、このブログ内ではよく「ランニング旅」や「ハイキング旅」という表現を使っています。
山登りやランニングを始めたというだけでも結構大きなライフスタイルの変化ですが、サンティアゴ巡礼路の影響はそれだけにはとどまってはいません。もはや人生そのものに影響を受けたと言っても過言ではないです。実際に、サンティアゴ巡礼路の旅の1年後に転職をすることになるのですが、サンティアゴ巡礼路へ行ってなければ今の人生はどのようなものになっていたのだろうなと思います。
このブログに書いてきたことも、ほとんど「inspired by サンティアゴ巡礼の旅」ですね。旧東海道の旅なんてのは、その影響が色濃く出ています(笑)サンティアゴ巡礼の旅を経て、「自力旅」という旅のスタイルが形になりました。
いまだ旅の途中
僕にとってサンティアゴ巡礼路の旅が与えた影響が大きすぎたことで、サンティアゴ巡礼路を外れていたこの4年間ですら、サンティアゴ・デ・コンポステラへ向かって歩いていたと言ってもいいような気がしています。実際には歩いていないけれど、心の中では歩いている、みたいな(笑)
とはいえ、やはりサンティアゴ巡礼路をいつかは歩ききりたいです。
まだ、旅の途中。サンティアゴ・デ・コンポステラの大聖堂の前に立つ日を夢見て、今日も歩いていきます。